⑭新型コロナの影響-その②

1.大企業の資金繰り

トヨタ自動車1兆円

日産自動車5,000億円

ANAホールディングス1兆3千億円

リクルートホールディングス4,500億円

-これらは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で不透明感が増す事業環境に備えるため、銀行に融資枠を要請した金額です。 

また、世界の上場企業3,400社の資金繰りについて、新たな資金調達をしない前提で日本経済新聞社が試算した結果、「売上が3割減ると、6か月後に4社に1社が資金繰りに支障をきたす」ことになるそうです。(日経4月14日朝刊1面)

 

2.中小企業の資金繰り

名立たる大企業でも上のような状態ですから、手元流動性として月商1~2か月分の現預金しかない中小企業にとって、売上の大幅減少は倒産に直結してしまいます。

事実、コロナ関連の経営破綻は、東京商工リサーチで報道されているだけでもこの1か月間で40件以上増加しています。 

政府からの緊急事態宣言や休業要請もあり、今後更に売上が激減する中小企業にとってできることは限られています。税金社会保険料光熱費等の支払い猶予は準備されていますから、活用しましょう。

次に、政府支援の支援策や制度融資を徹底的に利用し、取引金融機関には借入金返済の支払猶予要請を行い、当面の資金繰りを確保すること。

更に、家主に家賃の支払いを猶予するよう交渉することも必要ですが、これについては、海外では既に法制化を進め、借主の保護と同時に家主に対する支援策も打ち出している米国やシンガポールのような国もありますが、わが国ではまだ家主への要請段階にとどまっており、企業側の自助努力によるところが大きいと思われます。

 

3.新型コロナ

100年前に世界の人口の1/3に伝染し、4千万人~1億人が犠牲になったと伝えられている「スペインかぜ」は、流行から終息までほぼ3年かかっています。3回のピークがあり、今日のような様々な施策を実施するも効果はなく、結局多くの人が感染し集団免疫を獲得することで終息したようです。 

そうした前例を考えると、今回もかなりの長期戦を覚悟する必要がありそうです。

債権者の立場としては、中小の取引先に対してどこまで支援すべきか個別に判断しなくてはなりませんが、自社自身も安閑とはしておれず、厳しい決断が必要となるかもしれません。 

 

4.リスクマネジメント

もう一つ、今回の対応で気付いたこと。それは、日本人は東日本大震災のときに見られたように事がおきてから和の精神で助け合うことは得意ですが、将来おきるかもしれないリスクに対する準備が苦手だということです。

政府の対応をみていても、世界のリーダー達のメッセージの明確さや行動のスピードとは歴然とした差があり、国家としてリスクマネジメントが機能しているのか疑問に感じました。 

リスクマネジメントには、想定されるリスクに対して、「おきてしまった後の対処法」と「おこさないための事前対策」の2つがあるのですが、自然災害やパンデミックの発生に対しては人間が事前に操作することはほとんど不可能ですから、前者が重要です。

一方、取引先企業の倒産による回収不能リスクに対しては、事がおきてから慌てるのでなく、それが自社にとって致命的にならないような事前対策が重要となります。

事前に取引先の与信リスクを認識し、モニタリングを通じて自社で容認できる与信限度額を見直し、その範囲での取引に抑えるよう工夫する― この与信リスクマネジメントの実践こそ、最悪の事態を回避することにつながるのです。

「新型コロナの影響-その③」

⇒「リスクマネジメント-新型コロナ対応を振り返って」

「与信管理体制の構築とは

取引先が倒産してから慌てるのでなく、日頃から与信限度額を意識し、与信リスクを管理することが重要。