①取り込み詐欺-謄本を見ても相手の素性はわかりません

ある日の審査部での光景。
 
責任者が担当者を伴って青い顔をして、部屋に飛び込んできました。
数ヶ月前に取引を始めた取引先が急にシャッターを閉めて、行方がわからなくなったと言います。
担当者は、社長と会って売買基本契約書を締結し、連帯保証人にもなってくれた、先月、先々月と支払いは滞りなく行われ、今月の受注金額は更に大きくなったと言います。
ただ、事務の女性が夜の商売をなさっている感じの金髪娘だったそうで、「事務のことなどまるでわかっていなかった ! 」と怒っています。
 
それを聞いていた私は、「間違いない」と思いました。
あなたが会っていたのは、社長さんでもなければ事務の女性でもない。
 
私もかつてリース会社の新人時代に似たような経験をしたことがあります。
訪問した会社の社長は会社の謄本と印鑑証明書、それに個人の印鑑証明書を用意していて、社長の個人保証も快くしてくれた。手慣れた感じでことが進み、「随分しっかりしているな」とさえ感じたのです。
それから1週間後。その会社の事務所はシャッターが閉まり、リース物件と共に、もぬけの殻になっていたのでした。
 
共通しているのは、会社謄本や印鑑証明書といった書類が事前確認もなしにしっかりと用意されていたこと、社長が連帯保証人にすんなりなってくれたこと、事務所に机はあるが人が妙に少なく、特に女性の事務職員が見当たらないこと等です。
完全なプロの詐欺集団の仕業であり、今回も自動車の販売会社を初め、5~6社が、各々数十~数百万円の被害にあったのも共通していました。
 
会社謄本上では実在していても実際は休眠状態の会社に入り込み、その会社とは全く関係ない別人たちがその会社の社長らを装い、こうした詐欺行為を働くことはよくあります。
教科書的には、会社謄本上で本店の移動が頻繁にあったり、代表者や役員、扱い商品に変更があるような先は注意しろと言うのですが、そもそも詐欺を働こうとするプロはそんなヘマはしません。何も異動事項がないままにしておくのですから、謄本上は怪しさを感じさせないのです。
 
こうしたプロの詐欺は、一回被害に遭えば危険信号が体に染み込み、その次は未然に防げるかもしれません。しかし、業務を遂行していく中ではなかなか気が付かないものです。
その点からも、責任者は新規の取引を行うに際しては、必ず部下と共に先方を訪問して経営者と面談することが必要です。経営者が本当にその業界人であるか業界の話をしながら確認し、事務所もよく見回して何か「違和感」を感じることがないか、自分の目でしっかり確かめてくることです。この「違和感」というのは正に経験知であり知識だけでは修得しづらいのですが、十分な注意を払うことである程度は危険を回避できます。
 
先方からHPを見て取引をしたいなどと電話がかかってきたようなケースは、まず疑ってかかった方が良いでしょう。社長の自宅を確認しに行くと、いつでも逃亡できるように貧素なアパートの一室であったりするのです。換金性の高い商品を狙ってくるので、注文内容にも偏りがないかチェックが必要です。
 
結局、その件は警察も動き詐欺集団は逮捕されましたが、案の定常習犯であり、肝心の債権は全く戻ることはなかったのでした。