⑦企業は生き物、取扱い注意です

企業も人間と同じ生き物であり、継続的に業績を注視していく必要がある。

「貸し手の審査能力がないから焦げ付きがおきるのだ」というようなフレーズは昔から良く耳にしました、

東京都が1000億円の資金を出して鳴り物入りで中小企業向けの貸出を行う銀行を設立したとき、当時の知事が「目利き力があれば困っている中小企業に貸せるんだ」という主旨の発言を得意げにされていたのを今でも記憶しています。

 しかし、事前審査さえきっちり行えばあとは大丈夫という考え方は、全くの素人の発想だと言わざるを得ません。

 勿論、与信をする際には事前審査は必要ですが、決算書にしてもそれは過去の一時期の状況を示したものに過ぎず、今日はどうなっているのか、そして明日はどうなるのかは誰にもわからないのです。

 まして変化の激しい今日、違う業態の会社の新規参入によってシェアが劇的に変わることも日常茶飯事です。また、世の中全体の景気や金融環境等にも大きく影響を受けるし、取引先の顧客の倒産が取引先自身の経営を危機に陥れるかもしれない。こうした外部環境の変化だけでなく、企業自身の規模の変化や経営者の交代等ステージが変わることで成長に影響を及ぼすこともある。

 特に相手が中小企業であれば、決算分析をきちんとしたとしてもそれは当面の間は大丈夫であろうというにすぎず、一度設定した与信限度枠を維持し続けていては危険です。

 経営者自身についても同じです。調子の良いときであれば期日通りの返済は勿論、人間的にも素晴らしく見えるかもしれない。しかし、金策に困窮し、生きるか死ぬかの瀬戸際ではそうした人間性すら驚くほど変わってしまうものです。

 不祥事をおこすまで、静岡方面の銀行は優良経営で有名でしたし、before-afterで有名なスポーツジムも喝采を浴びていました。ゴーン会長など、V字回復の神のような存在だったのではないでしょうか。

 与信に携わる際は、人間も企業も状況によって刻々と変わっていく生き物だということを強く意識する必要があり、だからこそ継続的な与信の見直しが必要になるわけです。企業の業績を判断する場合には、現在の決算よりも長期的なトレンドを重視し、業績が悪化しているのなら原因はどこにありどういう対策をとろうとしているのか、そしてその対策は有効なのか-を見極まることが重要です。

 強いて言うなら、そのように継続的に取引先の動向を注視し、機動的に与信枠を変化させていくことこそ、「目利き力がある」ということになろうかと思います。そして、そのような見直しを定期的に実施する仕組みを社内に構築しておくことが必要とされるのです。