⑨民法改正が与信限度の関心につながる?

約120年ぶりの改正となる民法「債権関係」の規定が、2020年4月に施行されます。

売掛金2年、工事請負3年であった消滅時効が原則5年になる等の改正がありますが、実務的に最も影響が大きいのが、保証に関する事項だと思います。

 事業に関与していない第三者の個人(法人は対象外)が保証人になる場合、保証人自ら公証役場に出向き、保証意思の確認の手続きをしないと保証契約は無効となってしまうのです。また、主債務者は保証人に対して、財産や収支の状況 や主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報も提供する義務が生じます。

 これは、その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が安易に保証人になって多額の債務を背負う事態を回避するための措置ですが、一般事業法人の通常の取引においては非常にバーが高く、事実上、第三者の個人保証の取得は困難になったといえるでしょう。しかし、もともと最近では第三者の個人が保証を引き受けてくれるケースは多くはなく、むしろ実務上影響が大きいと思われるのは、代表者個人の保証を取得するケースです。

 改正後の民法では、個人(法人は対象外)が保証人になる根保証契約については、保証の上限となる「極度額」を定めなければ,保証契約は無効となってしまいます。一般的に販売業者が中小企業に継続的な納品を行う場合、売買基本契約書で代表者個人の連帯保証を取得することが多いと思われますが、そのような場合でも取引の与信限度額を相手に明確に伝えているケースは多くはないでしょう。

だが、これからそれは通用しなくなります。自社の取引に対して負担する全ての債務をまとめて代表者に保証させるのであれば、その極度額を事前に伝えておきなさいということです。 ここで必ずしも、会社に対する与信限度額=代表者保証の極度額とする必要はないのですが、取引開始時は揃えておくのが普通でしょう。しかし、その後与信限度額を見直す際、代表者の根保証の極度額も与信限度額の変更に伴って、覚書等で都度変更するのか否かという問題が生じます。

与信限度額を増額しても、会社が債務不履行に陥った場合は代表者個人が全額負担できる筈もないのだからといって根保証額はそのままにしておくのか(但し、配当が生じた場合は配当割合が減ります)、与信限度額を減額した場合は根保証額はそのままで良いのか(但し、与信限度額は現状維持だと思っている相手方は、ある日納品額が減らされたことに気づきクレームしてくる可能性があります)。

勿論、与信限度額の変更に伴い、都度代表者保証の極度額も変更させていくのが債権管理上正しい方法だと思われますが、相手との力関係やその頻度等によって、一律に運用するのは難しいかもしれません。少なくとも毎年与信限度額の見直しを実施しているのであれば、避けては通れない問題です。これは、法制定上は意識されていないことだと思いますが、実務上は大変重要で、根保証額の変更契約の締結基準や個別の管理が、各社においては今後必要となってくると思われます。

 いずれにせよ、今まで意識が薄かった与信限度額というものについて、仕入れ先も販売先もお互い関心を深めるきっかけになるのではないでしょうか。 

⇒ 与信限度額とは

第三者の個人保証の取得は、要件が難しくなった。

売買基本契約書に代表者の個人保証を取得する場合、極度額(根保証額)を記載しなくてはならない。