⑪正しい与信限度額は?

この企業の正しい与信限度額は?-多くのみなさんがよくされる質問です。

私の回答は「そんなものはありません。」

すると「与信限度額を設定することに意味はないのでしょうか?」

「いいえ、大いにあります。与信限度額は絶対守らねばなりません。」

「・・・・・」 

どういうことでしょうか? 

そもそも、皆さんの会社では何のために与信限度額を設定していますか?

「学術的にこの財務内容なら与信限度額は○○○円」と決めたいのでしょうか? 

それとも「この会社の与信額は300万円でなく、500万円が正しい。」と議論し、自己満足したいのでしょうか? 

忙しいビジネスマンにそのような暇はない筈です。

 私は与信限度額とは、今ある具体的な取引をする上で必要とされる金額を与信(掛売り)できるのか否かを検討することから始まると考えています。

商流やその企業の体力を考慮し、できると考えるのであればその額を与信限度額とすれば良い、それ以上でもそれ以下でもない。

過大だと思うのなら、その額を満たすには何ができるのかを考える-例えば、回収期間を短くできないか、他手を交えてリスク分散できないか、相殺できる債務を作れないか、一部前金をもらえないか、その先の販売先の協力も得て実行時期を分割できないか、同業他社と協力して一緒に取り組めないか等々。

現実の商売とはそういうものではないでしょうか。過去の決算数字をもとに無理くり計算式を創り出しても実際には機能しないし、第一その計算式が本当に有効なものなのか検証できないでしょう。 

実際、取引当初はいくらに設定すべきかよくわからないケースも多いものです。

勿論、企業規模や業績推移によって、5000万円は多すぎでせいぜい500万円だとか、500万円ではなく100万円だとか、よくわからない先なのでごく少額から始めてみようとか、いやここは絶対取引すべきでないとか、こうした基本的な判断は、普段から研修や実践を通じて学び、自社の財務体力を勘案したうえで、ある程度共通認識をもてるようにしておく必要はあります。

 しかし、正確な金額を追求する必要はありません。それは取引を通じて、この企業は今の回収条件ではこれくらいの与信額が必要になるということがわかってくるからです。

昨年の当社の当該企業への販売実績、当期の販売目標、近時の当該企業の業績推移、現在の与信限度額等を横睨みしながら、限度額を変更していけば良い。勿論、必要に応じて、回収条件の改善や保全の強化等も併せて検討していく、相手が中小企業の場合、この作業を通じてあるべき与信額が固まっていくと言ってよいでしょう。

だからこそ、与信限度の定期的な更新が重要なのです。そして、決めた与信額は絶対に守る、そこをいい加減にすると企業のガバナンスが崩壊してしまいます。もし、その決めた与信額が適当でなくなったなら、ルールに則り変更していけば良いのです。

そうした与信限度額の定期的な更新の仕組を構築しておくことで、与信限度額が会社を守るツールになるわけです。 

具体的な取引を実行するために、何が必要かを考えることから始まる。

販売実績、販売目標、当該企業の業績推移等を横睨みしながら、与信限度額を定期的に見直していく。