⑱資金状況が一目でわかるキャッシュフロー計算書

黒字だと思って取引していたら、ある日突然倒産した! 経営破綻の予兆を知るには何を見たらいいか? 

B/SP/Lでは見えない部分を補うものとして、キャッシュフロー計算書、特に営業キャッシュフロー(CF)とフリーキャッシュフロー(FCF)に注目すべきです。 

キャッシュフロー計算書とは、キャッシュの入金 (と 出金 (-)について、

・営業活動に関する「営業CF」:営業によってキャッシュが増加すれば(+)

・設備投資や企業買収等に関する「投資CF」:積極的に設備投資をすれば(-)

・資金調達に関する「財務CF」:借入をすれば(+)、返済をすれば(-)

の3つに分けて示されており、キャッシュの増減から企業の資金状況が把握できます。

 

1.最も重要な営業CF

Cash is king.」と言われ、「キャッシュは嘘をつかない」とも言われます。

経営の最終目標はキャッシュを増加させることといっても過言ではないでしょう。

決算上黒字であっても、キャッシュに乏しく資金繰りがつかなければ、倒産してしまいます。 

特に、「営業CF」は営業活動を通じて増やしたキャッシュの額なので、大きいほど良く、商売をする以上はプラスであることが大前提です。

「営業利益はプラスだが、営業CFがマイナス」となっている場合、たまたま売掛債権の回収が長期化していて、特定の期だけマイナスになったのなら良いのですが、恒常的にマイナスが続いている場合は警戒が必要です。

なぜならそれは、

①     回収できない多額の不良債権を抱えている。

②     処分できない多額の不良在庫を抱えている。

という可能性が強く、本当に利益が出ているのか疑わしいからです。

 

2.倒産上場企業の決算書(1)

実例で見てみましょう。

2015年以降、上場会社の倒産は合計8社あります。(20207月30日現在)

倒産した直前期と前々期について、経常利益と営業CFを調べてみると以下の通りで、P/Lの経常利益が大幅赤字や連続赤字となっている会社がやはり多くなっています。

ただこの中で、江守グループHDG㈱などは2期連続で経常利益は黒字であり、CF計算書を確認していないと資金繰りが厳しいことに気づかなかったかもしれません。

同社は多額の回収不能債権を抱えて2015年に倒産しましたが、損益計算書上の利益は、売掛債権を回収しキャッシュを手にするまでは、まさに絵にかいた餅に過ぎないことがわかります。(1.①のケース)

       

    前々期 

    直前期

企業

経常利益

営業CF

経常利益

営業CF

2015

第一中央汽船㈱

-8,584

-9,851

-13,966

-4,821

江守グループHDG

5,410

-5,197

3,103

-21,642

スカイマーク㈱

-403

1,059

-15,991

355

2017

タカタ㈱

40,657

3,831

35,206

8,576

㈱郷鉄工所

72

-67

-751

-139

2018

日本海洋掘削㈱

-11,516

-801

-12,055

-3,957

2019

㈱シベール

-117

48

-163

-44

2020

㈱レナウン

-1,998

1,212

-7,795

-4,567

※㈱郷鉄工所は破産、日本海洋掘削㈱は会社更生、他は民事再生   単位:百万円

 

3.倒産上場企業の決算書(2)

一方、先に述べた「②処分できない多くの在庫を抱えている」ケースは、リーマンショック時の不動産業者に顕著に見られます。リーマンショック前後の20082009年には上場企業は53社も倒産し、内35社は不動産・建設関連企業でした。

代表的な2社の経常利益と営業CFは以下の通りですが、「多額の利益を計上する一方、棚卸資産(在庫)が異常に増え、営業CFは大幅マイナス」という特徴は、他の破綻した同業者にも共通しています。

              前々期           直前期

 

企業

経常利益

営業CF

経常利益

営業CF

2008

アーバンコーポレーション

56,398

-55,033

61,677

-100,019

㈱モリモト

10,921

-36,875

18,336

-16,117

                          単位:百万円                  

営業CFが大幅なマイナスなのに経常利益が黒字なのは、仕入れた不動産は販売するまでは棚卸資産であって、仕入代金が売上原価にならないからです。

(売上・経費対応の原則:売上原価=期首棚卸残高+当期仕入高-期末棚卸残高

破綻直前の決算を見ると、期末棚卸残高は㈱アーバンコーポレーション437,778百万円、㈱モリモト193,908百万円と多額で、棚卸資産回転期間は㈱アーバンコーポレーション21か月、㈱モリモト19か月と業界事情を考慮してもかなりの長期間になっています。

結果、㈱アーバンコーポレーションは破綻直前期においては、経常利益は616億円の黒字となっていますが、営業活動を通じてキャシュは1000億円も減っており、資金繰りは相当逼迫してしたことがわかります。

 

4.返済余力が測れるフリーキャッシュフロー

フリーキャッシュフロー「FCF」とは、営業CFで稼いだキャッシュから設備投資や企業買収等投資項目のキャッシュ増減(通常はマイナスとなる)を加えた額をいいます(FCF=営業CF+投資CF)。

営業CFで稼いだキャッシュで投資を行い、残ったキャッシュ(FCF)から株主への配当や金融機関への借入返済・利払いを行うというイメージです。

ですから、FCFがマイナスだと配当も返済もできないことになりますが、実際は追加の借入や増資(=財務CFがプラスの状態)によって、あるいは手持ちの現預金によって賄っていくことになり、それができなくなれば存続は難しくなります。

先に掲載した2015年以降の倒産会社はほぼ全てFCFはマイナスとなっており、営業CFでプラスを出した下記2社も例外ではありませんでした。

投資をするに十分なだけの営業CFが稼げていなかったとも言えますし、投資を控えるべきだったともいえますが、FCFのマイナスが続くようであれば要注意で、生きるも死ぬも金融機関の支援しだいということになります。

                前々期                直前期 

企業

経常利益

営業CF

投資CF

FCF

経常利益

営業CF

投資CF

FCF

2015

スカイマーク㈱

-403

1,059

-10,855

-9,796

-15,991

355

-13,920

-13,565

2017

タカタ㈱

40,657

3,831

-33,672

-29,841

35,206

8,576

-22,643

-14,067

単位:                               単位:百万円            

 5.中小企業のCF

上場企業の場合、キャッシュフロー計算書は、B/SP/L、業績予想と共に4半期毎に開示しなくてはなりません。

しかし、非上場企業の場合はその義務はなく、特に中小企業の場合、作成している企業は少ないと思われます。従って、取引先から一般管理販売費の明細付きの決算書を入手して、税引き前利益を起点とし、支出の伴わない費用分をプラスし、入金の伴わない収入をマイナスして自ら作成するしかありません。

B/Sから簡便にチェックするなら、年商を12で割ってまず月商を出し、「現預金」と「棚卸資産」が何か月分あるかをチェックするだけでも手元流動性と過剰在庫の有無(=利益が表面上のものでないか)が見分けられます。

また、売上債権回転期間(売掛金+受取手形/平均月商)に異常が見られないかを確認することで、不良債権の有無が推測できます。

 

6.コロナ禍の環境下での企業のCF

一部の業種を除き、そもそもの売上が激減し、営業CFFCFが大幅なマイナスに陥った企業が多いと思われますが、中小企業の場合は、金融機関の返済猶予や制度融資を含めた積極的な新規貸し出し等の支援(財務CFのプラス)によって、何とか持ちこたえています。

何よりもワクチン開発の進展を期待するところですが、この危機的状況が去った後にも、Withコロナに即したサービスの提供や業態転換が必要となってくる先も多いと思われます。

前述したように、FCFが継続的にマイナスの場合、金融機関が見放したらおしまいなのです。

P/Lの営業利益(又は経常利益)と営業CFは本業の収益力を把握する上で共に大切な指標です。     両方、チェックしましょう!