⑲リスクマネジメントとは―新型コロナ対応を振り返って

今年の年初、2度目となる緊急事態宣言を伝える記者会見で、「現在のこの宣言を仮に延長する場合、今回と同様に1カ月程度の延長を想定しているのか」と記者から問われた場面で、首相は「仮定のことについては、答えは控えさせていただきたい。」と回答しました。

一国の首相がリスクマネジメントというものを全く理解していないことを知って、私は愕然としました。 

リスクマネジメントとは、起こりうるリスクを想定し、そのリスク要因を事前に排除するための施策を打つこと (狭義のリスクマネジメント) 、そしてもしその事態が発生してしまったときの事後対応を考えておくこと (クライシスマネジメント)の両方を言います。

今日的には、有事の際の組織内外のステークホルダーと適切なコミュニケーションを図る「リスクコミュニケーション」も含まれると考えるべきでしょう。 

日本は昔から台風や地震等自然災害が多く、リスクマネジメントには長けているものと思っていましたが、そうとは言えないようです。

新型コロナ対策について言えば、

    海外からの入国制限

    医療崩壊を避けるため医療提供体制の整備(人口当たりの病床数は世界一)

    ワクチンの早期接種(接種率はG7で断トツの最下位)

がその要諦であったと思われますが、その全てに失敗しています。

また、オリンピック開催時期については100年前のスペイン風邪の終息過程を参考に決定していれば、「1年後」より「2年後」を選択すべきだったのではないでしょうか。

更に、危機感の共有や克服に対する強い意思表示や協力メッセージ等も国民にうまく伝わったように思えません。

このように新型コロナ対策が世界の中でもひときわ劣っていると感じられるのは、政府のリスクマネジメントの欠如に起因し、場当たり的対応に終始しているからと言っても過言ではないでしょう。 

確かにわれわれ日本人は「悪いことを想像するのは不謹慎」だとか、言霊といって「悪いことを口にすると現実化してしまう」というような迷信的な観念に支配されている部分は否定できません。

しかしこんなことでは、もし本気で日本に攻め込もうという国があれば、爆弾など一発も使わずともドローンが数十機あれば充分だということに気づかされ、空恐ろしくなりました。

 この1年半以上に及ぶ一連の政府のコロナ対応は、企業においても他山の石とすべきです。学ぶべきことは、リスクは起きてから考えるのでは遅く、起こりうる最悪の事態を念頭に、事前対策、事後対応の準備を平時から怠らないということです。また、リスクは常に変化するので、毎年レビューすることも大切です。

ある企業向けのセミナーで「隕石が地球に激突した場合のリスクも考えておく必要がありますか?」という質問がありました。その企業がそれを重大なリスクとして認識するのならば準備しておく必要がありますが、全てに準備する余裕はないのであれば優先順位を考えるべきですし、また、自社だけでは対応不能なことはやり方を考える必要があるでしょう。

しかし、身近なリスクは確実に自社で準備しておく必要があります。倒産リスク、回収不能リスクも間違いなくその一つであり、起きてから慌てても場当たり的な対応しかできず、良い結果は望めません。

貴社においては、その準備はできているでしょうか?