事前審査は何を見る?

新規取引先の場合は、引合経緯のチェックのほか、会社謄本を取得してその会社が実在するか確認し、現地訪問をしてその地に根が生えているか、眼の前にいる代表者は登記上の代表者と同一人物なのか等を確認し、与信金額によっては会社や代表者自宅の不動産謄本を取得する等、慎重な対応が要求されます。

しかし、既存取引先の場合、相手の素性は確認できていますから、もっと効率的な審査が要求されます。 例えば、社員に与信に関する研修を行うとします。すると大抵、決算書の見方の研修を始めるということが多いのではないでしょうか。勿論、決算書の見方を理解しておくことは有能なビジネスマンの条件ではあります。

しかし、である。金融機関は別として、一般の事業会社の営業マンが取引先の決算書を見る機会が一体、年に何回あるでしょうか。大口仕入先の立場となれば別ですが、その他大勢の取引先の一社であれば、取引先に頭を下げお願いして買っていただいているというのが実情でしょう。そのような力関係で決算書を要求するのは極めて難しいと思われます。(上場企業であれば決算は公開されていますが、そもそも上場企業の与信管理に頭を悩ますなんてことはまずありません。)

ですから与信判断という観点からいえば、決算書の見方の研修に時間をかけるのは効率的ではありません。それよりも大切なのは、調査会社の1枚の企業情報から一瞬にして相手の与信レベルを見分ける力です。私の場合は、①規模感、②業績推移、③安全性の3点を重視しています。

①規模感

相手先は、父ちゃん母ちゃんの個人企業に毛が生えたレベルか、町の中小企業か、地場の中堅企業か、大手企業か、イメージをもつことです。年商や従業員数でおよそ察しはつくでしょう。特に、自社と同業種であれば自社を基準に考え、中小零細企業の場合は、社員自身、あるいは実家の資産を念頭に考えてみると相手の規模感がイメージしやすいでしょう。規模が大きいほど安全というわけではありませんが、まず規模感を掴むことは営業を展開する上でも重要ですし、与信金額を決める上でも重要なポイントとなります。新入社員にはまずこれを徹底して教えることが必要で、それによって、与信先の業績数字の単位(千円か百万円か)を間違えて申請してくることもなくなるでしょう。

②業績推移

業績は単年度で見ても何も見えてきません。過去5~10年のトレンドでみて、増収増益、増収減益、減収増益、減収減益のどれにあてはまるのかを掴む。これは調査会社の1枚の企業情報で十分把握できる内容です。増収増益基調ならば安心ですが、増収減益、減収増益の場合はその主な原因を把握すること。減収減益の場合は要注意です。特に減収が響き、近時連続赤字を計上しているような先は警戒すべきで、昔からの取引先だからと安心していてはいけない、冷静に見ると10年前から売り上げは半減し、3期連続赤字が続き、遂に債務超過となり倒産!なんてこともよくあるパターンです。

③安全性

先に規模が大きいほど安全とは言えないと述べましたが、図体が大きく負債が大きい先よりも中小零細企業でも無借金経営をしている先の方が経営破たんの危険性は低い。それを一目で把握するには自己資本比率を見れば手っ取り早いですが、1点注意があります。破綻の可能性は低くても規模が小さいと与信枠には自ずと限界があるということです。(自己資本比率60%だからといって、総資産1億円の会社に1億円の与信はできないでしょう。)

だから、上記①にも関係しますが、総資産と自己資本の実額を把握することが重要です。調査会社の1枚の企業情報にはこの実額は掲載されていませんが、経審*には記載があります。また、経審は直近の単年度情報ではありますが、現金の源となる営業キャッシュフローも掲載されており、調査会社の企業情報と組み合わせて見ることで精度の高い審査ができるのです。

経審*:経営事項審査とは、国、地方公共団体などが発注する公共工事を直接請け負おうとする場合には、必ず受けなければならない審査です。http://www.ktr.mlit.go.jp/kensan/index00000007.html

⇒ 事前審査は何を見る?(決算書を入手できる場合)

①規模感、②業績推移、③安全性の3点を把握することで、方針は立てられる。